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「夢の光が照らす文化と歴史」講演会

電子を光速近くまで加速して物質に照射するとその物質に含まれる元素固有の電磁波が放出される。
放出された電磁波を検出器で検出して、物質の組成や成り立ちを解明する世界最大の装置が兵庫県作用町光都に設置されている。
「spring8」と呼ばれる周長1.5Kmもある大型放射光装置である。

その「spring8」を利用してアートや考古学に活用してもらおうという企画
「夢の光が照らす文化と歴史」
が奈良県新公会堂能楽ホールで開かれた。
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主催は「spring8」を運営する「独立行政法人 理化学研究所」と「財団法人高輝度光科学研究センター」という文部科学省傘下のお役所で、東京芸術大学が協力している。

特別講演として早稲田大学名誉教授の吉村作治氏の「科学の力で歴史の謎を解く」が用意されている。「豊中歴史同好会」のブログを読まれた事務局から案内招待状が送られてきたので会員の神奈備氏とブログ読者のKariさんの三人で聴講してきました。

奈良県新公会堂は東大寺と若草山に挟まれたなだらかな丘に建設された施設で、内部に能楽堂が設けられている。
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ホールには「spring8」の紹介や、考古学への応用など展示されていた。
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講演は
東京芸術大学大学院教授宮廻正明先生による
 基調講演「アートとサイエンスの融合」ではじまり
理化学研究所高田昌樹氏の「夢の光を創るSPring-8」
京都大学生存圏研究所杉山淳司先生
 「ひとかけらの木材からわかること、知りたいこと」
奈良文化財研究所客員教授佐藤昌憲先生
 「放射線赤外分析で探る古代絹織物」
東京理科大学理学部教授の中井泉先生
 「X線で古代エジプトを探る」
と続き最後が吉村先生の特別講演であった。

事業仕分けでは「spring8」も予算がつかない事態に追い込まれたが、復活してことなきを得たようである。
古くは和歌山毒カレー事件で微量の砒素を検出したり、これから始まる小惑星イトカワの微細粒子の分析が話題になっているが、実際は基礎科学からメーカーの開発支援まで実に多くの分野に利用されている巨大分析装置である。

ここでは、
泉屋博古館と大阪大学考古学研究室によるspring8を使った研究例
東京理科大学理学部の可搬型X線解析器を用いた研究事例
を紹介させていただく。

■古代銅鏡の成分分析と出土地域の同定
三角縁神獣鏡などの古代銅鏡は中国で作られたものか日本製か考古学では永年の議論の対象になっているが、spring8による成分分析をした事例紹介がパネル展示されていた。
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この研究は泉屋博古館大阪大学考古学研究室が共同で実施(2004)されたものであり
spring8が出土物の製造場所の特定において大きな力を発揮した例である。
未盗掘で発見されて大量の銅鏡が出土した黒塚古墳の鏡は大陸で製造されたものと成分が一致している。しかしながら他のものでは同定できないものもあり、三角縁神獣鏡は大陸製と倭製が存在することが明らかとなりつつある。


【参考】
スプリング8による分析
大阪大学教授 福永先生の投稿記事・西日本新聞 2004年6月8日
(今回のSPring-8を使った微量成分分析の成果が三角縁神獣鏡を中国製と倭製にわける方向に向かいつつあることは無視できないように思われる。)
http://www.let.osaka-u.ac.jp/kouko/040608nishinihon.htm

会誌つどい273号 つどい273a
「三角縁神獣鏡と邪馬台国論
大阪大学教授 福永伸哉 先生


■ツタンカーメン像の成分分析

早稲田大学の宇田応之教授、吉村作治教授、桜庭祐介教授、
理研計器㈱の石崎温史氏、山下大輔氏
2006年6月にこのマスクを調査。
調査は宇田教授らが開発したX線回折と蛍光X線分析を同一場所で行える
XRDF(X-Ray Diffractometer equipped with X-Ray Fluorescence spectrometer)
を用いて行われた。

Spring8_111

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【黄金のマスクの金細工】
*大きさ 
 高さ54cm
 幅39.3cm  
 重さ11kg

*製法
 金板からの鍛金技法 
 表層に、微細な金粉にニカワを加えて薄く塗っている

*品位
 内部平均 Au+Ag 95%以上 Cu 5% 以下
 表層平均 Au+Ag 88%   Cu12%
 唇部分 内部 Au96.6%  Ag1.0%  Cu2.4%
 表層 Au76.8%  Ag11.2%  Cu12.0%  厚さ28nm
 頭巾部 内部 Au97.8%  Ag1.4%  Cu0.8%
 表層 Au93.8%  Ag3.2%  Cu2.9%   厚さ30nm

材料
 Au金 ナイル川上流ヌビア(現スーダン)産と推定
 Ag銀 輸入(エジプトでは産出されていなかった)

マスク板の表層に、微細(ナノメートル単位)な金粉にニカワを混ぜ、
薄い膜として覆っている。この膜は薄いため光を透過し、また
反対色の作用でマスク本体の色調を純金色に補正している。

■宝石鉱物類
 眼(黒目 オブシディアン(黒曜石) 研磨
 眼(白目)マグネサイトの粉砕を固形して接着

 アイライン ラピスラズリを粉砕してニカワで成型、接着
 頭のコブラの赤色 カーネリアン(発色は、Mn,As) 研磨物を接着
 胸飾りの赤色 カーネリアン(発色は、Fe,As) 研磨物を接着

 胸飾りの青緑 マイクロクリン(微斜長石:アマゾナイト) 研磨物を接着
 色部分はガラスとの説もあったが、これらの部分は天然の鉱物、
宝石であることが判明した。材料の入手にも世界中から集めた。
 (Mnマンガン  Asヒ素  Fe鉄)

■人工の色
 頭巾(ネメス)の縞の青  
 90%以上の非晶質相で、
 エジプシアンブルー(エジプト古代の顔料:CaO・CuO・4SiO2)と、
 正長石(オーソクレース)、
 石英(クォーツ)、
 透輝石(ダイオプサイド)、
 塩(ナトロン)のほか、
 アマナルブルー(多元素系コバルト・スピネル:Co(M)Al2O4,  M=Mn,Fe,Ni,Zn)
 が含まれる可能性がある材料を焼き、粉砕してニカワで成型した。
 宇田教授らは、ツタンカーメン・ブルーと命名し、発表した。
 (Caカルシウム  Cu銅  Si珪素  Coコバルト  Niニッケル  Zn亜鉛)

古代から特有の青い顔料(エジプシアンブルー)を用いてきたエジプトで、
ツタンカーメンの時代、さらにラピスラズリの色に近い、紺青色の顔料が開発された。

出典資料
「金属」Vol.77 №9~11別冊 ツタンカーメン黄金のマスク 
(1) 金細工の巧み  (2) きれいな天然鉱物  (3) 人工の色
宇田応之 吉村作治 桜庭祐介 石崎温史 山下大輔 共著

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